02.meteo/天気予報

 
遅刻した理由は敢えて聞かなかった。聞いたら教えてくれるだろうけど、何かしらのトラブルであることはわかっていたから。
それに、ただでさえ少なくなった時間を取り戻したいし。前を歩くポルナレフが振り向いて、鼻をこする。冷たいらしい。
「なー、寒いから地下鉄で行こうぜ」
極端に寒いのが苦手なわけではないが、今日も薄着のポルナレフには耐えられなかったらしい。厚着してくれば良かったものを、ぷるぷると震えている。
「仕方ないなあ」
「やりっ」
ぱちんと指を鳴らして、よっぽど寒いところから抜け出せるのがうれしいのかスキップまでして地下鉄の入り口まで向かう。
その途中、あんまりにも勢いが良かったのかポルナレフの靴はぽーんと弧を描いてとび、地面に落ちる。
「あちゃあー」
恥ずかしそうに笑って、片足で跳んで拾いにいこうとするがなかなか進まないし、少し危ない。さすがに、靴下をはいていたとしても地面に足をつけるのは冷たすぎた。
「僕が行くよ」
「花京院…おごるのはひとつだけだぞ」
「…そんなに僕が要求するわけないだろう」
何か裏があるとでも思ったのか、ポルナレフはキョトンとしたあとにきりりと表情を引き締めて毅然と言い放つ。
拾った後逆に放り投げてやろうかと思いながらも靴のところまで行く。ふと、幼いころの思い出がよみがえる。ひっくりかえった靴。
「明日は雨だね」
「そうなのか?天気予報でも見てきた?」
突然天気の話になったことを不思議に思ったのか、首をかしげている。彼の母国には、おそらく無い習慣…というか、おまじないだろう。
「おまじないみたいなものかな」
「へえ、どんな?」
興味が湧いたらしく、目を輝かせて前のめりになる。一本足でそれが支えられるわけもなく、両手をわたわたとさせていた。
靴を拾い上げて、ポルナレフに投げる。キャッチしたあともふらふらと落ち着かず、やっと靴を履いて先にいる僕の横まで来た。
「靴を飛ばしてね、それで明日の天気を占うんだ」
「ほー?」
「明日天気になーれ、って言いながらね?」
小さいころ、母さんに手をひかれながらよく靴を飛ばしていたっけ。あんまり遠くに飛ばしちゃだめよ、なんていわれたことを覚えている。
「靴が立ったら晴れ、裏返ったら雨、横に倒れたら曇り…って感じで」
「面白いな!」
さっきよりもなお瞳を輝かせるポルナレフに、苦笑する。今すぐにでも彼はやりかねない。
「君はやるなよ」
「何でだよ」
「これは子供のおまじないだから」
一応年上の彼は、手をたたいてそうかと納得している様子だが、早速さっき拾ってきたばかりの靴を飛ばしていた。

07/11/24