03.domior/眠る

 
地下鉄のホームには、目的地へ向かう電車がちょうど滑り込んだところだった。
平日の昼間ともなると、そこそこすいている。しかもここは終着駅だから車内は一度空になるのだ。
「あったけぇー!」
嬉々として席に座る。温まっている座席に満足したらしく、満面の笑みを浮かべて早く来いよとばかりに手招きをしている。
まだこの車両には二人きりしかいなかったからか、余計にポルナレフもやかましい。特に不快なわけではないが。
「着くまで何分だっけ?」
「うーん…20分くらいかな」
地下鉄は総じて各駅停車であるから、少し時間がかかる。さらに目的地は一番端っこだから余計だ。
車内アナウンスで、車両の調整のために出発に時間がかかることを流している。人が少し増えてきたが、ごっそりといるわけではない。
「20分じゃつけないかもしれないなあ」
「…」
返事が無い。無視するなよ、とばかりに隣をにらみつけると俯いて寝息を立てている。
前にかくり、と落ちそうになる頭をあわてて僕に寄りかからせた。彼の特徴でもある、逆立てた髪が前に倒れるとなるとほかの人の邪魔になるだろうし。
そう、だから、寄りかからせたのは邪魔になるって理由があるだけだ。別に、それ以外に何か意味があるわけじゃあない。
ぞろぞろと人が集まり、座席も埋まったころやっと調整が終わって電車は出発した。
彼は出発するときに一度うめき声をあげただけで、すやすやとそれは気持ちよさそうに眠っていた。
「ポルナレフ、もうすぐ着くよ」
「う…?」
目的地の一駅手前で、軽くハタいて起こすと何が起きたのかわからないとばかりにきょろきょろ周りを見渡す。
もしかして眠っていたこと自体記憶にないもかもしれない。
「花京院」
「なんだい?」
「…肩、ありがとな」
照れて笑うその顔に、僕も不思議とつられてしまって笑みがこぼれた。

07/11/25