05.chocolat chaud/ホットココア

 
着いた場所は、人で溢れる通りから少し外れたところにあるカフェ。
このカフェはポルナレフのお気に入りで、お前以外に教えないからな!秘密だぞ!と念を押してつれてこられたことを覚えている。
彼は大勢といるのが好きだという反面、一人でいる時間もまた同じように好んでいた。
こうやって、彼が一人で過ごすような空間を教えてもらったときは他人が知らない彼を知ったようで、得意な気持ちになったものだ。
「さー何でも来いっ!高すぎるのはダメだけどな!」
「それ、何でもっていわないじゃないか」
くすくすとメニューを広げて笑いあう。このカフェの落ち着いた雰囲気は、心を穏やかにさせてくれる。
「じゃあ、ホットココア」
ぴくり、と彼はメニューをめくる手を止めて顔を上げる。驚いた、とはまた違うような表情だ。悲しそうにも見える。
「そんだけ?」
「まず、温まりたいからさ」
「じゃあ俺もそれ」
店主にそれを頼むと、彼はメニューを閉じて目を伏せる。さっきの悲しそうな顔を思い出す。今も、それが少し残っているような気がして。
「どうかした?」
「いや」
手を振ってなんでもない、とあらわしたあとに顔を上げる。どうみても、なんでもないような顔はしていないのだけど。
視線を送り続けると、観念したのか一息ついてからポルナレフは重々しく口を開く。
「シェリーも好きだったなって、思い出してただけだ」
「あぁ、そうだったんだ…」
目を伏せる。しまったな、この話題は出すべきじゃなかった。いやがおうにも、彼の表情が曇ってしまうから。
彼の妹、シェリーは不慮の事故で亡くなっている。たった一人の肉親も失ってポルナレフの悲しみは深かったことだろう。
だからそれを知ったとき、驚いた。彼は底抜けに明るくて、陽気で、暗い過去を匂わせなかった。このことを知っている人は少ない。
「ココア、どうぞ」
「あ、どうも」
沈黙の間に、湯気がたつココアが運ばれてくる。独特の甘いかおりに、思わず頬が緩む。
「へへ」
カップを持って、少し困ったようにポルナレフは笑う。まさか、笑うとは思っていなくて目を丸くした。
「ま、今はお前と一緒に飲むのもわるかぁない」
「それ、くどき文句かい」
思わず力が抜けてしまった。頬を少し赤に染めて、ポルナレフはなんでとばかりに首をかしげる。
「はぁ?」
さっきの一言を思い出して、恥ずかしくなったのか聞こえないふりをしている。
ぐっと彼の服を引いて、軽く口付けた。店内には幸いにも、こちらを気にする人はいないし、そもそもそんなに人もいない。
「かっ、かきょ」
「しぃー…」
人差し指を立てて、周りに目配せするとはっとして口をもごもごさせている。文句を言っているようだけど、さっきの彼を真似て聞こえないふりをした。
「そこまで言われたら、こうしないわけにいかないじゃないか」
笑って見せると、いよいよポルナレフは真っ赤に染まってしまう。ばかやろう、と小さくつぶやく声が聞こえた。

07/11/25
 花ポル練習で5つかいてみましたがまだ不安定。そのうち修正したいです。