姫始め
「うぁ、ッ」
「なんだ、嫌か」
首筋を犬みたいに舐められるとくすぐったいらしくてたまらず押しのけられた。犬みたいだなんてバカにされるのは気にしない。
鎖骨に歯を立てる。視線だけで伺うと、目をそらして下唇を噛む。声をたえたのか、ゆっくりと息を吐く。
「もう逃げるか?」
わざとその言葉を選ぶのはここに縛り付けておきたいからだ。今度こそ、という気持ちもある。
何度チャンスをわざと逃したか、無理に押さえつけてでもやっておきたかったが承太郎のほうからも求めさせたかった。
それだけのたえにどれくらい芽を摘んだか。もう少しもう少しと先延ばしにしてきたご馳走だ。まだ味わいたい。
「…何いってやがる、平気だぜ」
むすっとして、睨み付けてくる承太郎の頬はほんのりと赤くなっているのが見える。平気ではない、ただの強がりだ。
そうか、と簡単に返事をしてシャツを脱がしにかかる。裾をたくしあげただけで承太郎はぎょっとしているようだった。
あまりこういう経験がないんだろう、このあたりは普通の高校生なのだ。初々しくていとおしい、と思う。
ジョースターの血統ではある。でもそれと切り離して考えれば、かわいらしいとすら思えるのだ。
一回死んだからだろうな、と冷静に考えることが出来るまでにはなったのだ。成長とかそういうものではなくただの納得。
「…自分で脱ぐから、手ぇ離せ」
少し考え込んでいたのを勘違いしたのか、自分からシャツを脱ぎ去ってしまう。脱がせるのもひとつの醍醐味だというのに。
自分で脱いでくれるのはありがたい、なにより積極的なのがいい。シャツを丸めて床に放る。
「承太郎、私はお前が好きだぞ」
「…初めてきいた」
「嘘をつけ」
ことあるごとに言っていたのを、記憶にとどめていなかったらしい。まったくこれじゃ話にもならない。そこが奴らしいといえばそうなのだが。
血が通わない体はひんやりと冷たい。かわりに違う液体が流れているようで、生きているときと変わらないで動かせるがひどく冷えているのだ。
承太郎の体に触れるたびに指先だけが体温を奪って熱いくらいに感じる。びく、と体をふるわせるから承太郎も相当冷たいだろう。
「冷てえ…」
「…死んでるんだから当然だろう」
ぽそりと言うと承太郎は視線を落とす。その表情に罪悪感だとか、気にするはない。当然だろう、倒すべき悪だったのだから。それは知っているし、理解している。
気にかかるのか、珍しく承太郎のほうからそっと顔をなでてきた。輪郭をなぞったあと、髪を指ですいて目を覗き込む。
「俺とそんなにかわらねえのに」
ふかい緑色の目は相変わらず澄んでいて、それを見るとどうしてもその目を涙でいっぱいにしてやりたくなるが堪える。今それをするべきではない。
変わりに薄く目を閉じて口付けた。もうそれに抵抗はないらしく、されるがままだ。舌を差し込んで暖かい口内を味わう。
当然、口の中もひんやりと冷たくなっていく。息がうまくすえないのか、服の裾を引かれた。苦しい、ということらしい。仕方なく開放してやると熱っぽく息を吐いた。
「ふ、っ…んん」
「…噛むな、切れるだろう」
「くるし…って、いったろ…」
どうやら息を止めていたらしく、少し噴出してしまう。そこまでとは、思っていなかった。うぶなのはいい、教えがいがある。
海のそこにいた100年より前、生きていたころ。それなりに経験は多かった、それに再び地上に出てからもそれは変わっていない。
「そんなんじゃあ…逃げられるぞ、今から慣れておけ」
黙り込んで顔を伏せる承太郎のあらわになった首筋をなでると、やはりまだ冷たさにはなれないのか少し顔を上げた。それから怪訝な顔をして、ぎらりと睨み付けてくる。
逃げるとか、そういう言葉はお好きじゃないらしい。血統だろうかとぼんやりジョナサンを思い出す。違う人物ではあるが、どこか似ていると感じるのは感傷かもしれない。
「お前で?」
「教えてもらうだけいいだろう?」
無知よりはましだ。言いくるめておとなしくさせて、肩口に顔をうずめる。こうするとどうも首に歯を立ててしまいたくなるからいけない。そういう魅力があるのだ。
吸血鬼になって発達した牙を立てる代わりに舌を這わせた。承太郎は小さく息をついただけで、やめろとか嫌だとか抵抗をまったくしない。良い傾向だ。
「…つー、か」
「何だ」
横になったままの承太郎が思い出したようにぽそりとつぶやく。返事を待つ。一度視線を合わせてから、すぐにそらされてしまった。
「……てめぇ、勃つのか」
一瞬の静寂。ほどなく我慢出来ずにのどの奥から笑い声がこぼれてしまう。く、くと我慢していると居心地が悪いらしく鋭く睨み付けてきた。
「何笑ってんだ」
「いや、なんだ、気にしてるのかと、く、くう」
涙まで出てきた。このDIOが。承太郎がまさかそんな言葉を出すとは、これっぽっちも思っていなかった。思わぬことをやってくれる。
「笑いすぎだ…」
「すまん、拗ねるな」
ぷいと顔を背けてしまった承太郎にどうも頬が緩む。今までこんな風に笑った顔を見せたことがないせいか、承太郎も仕方ないとばかりにため息をついて頬をつねるだけにとどめたらしい。
「こんな経験あるわけねえだろ、知ってるほうがおかしいんだ」
「わかったからつねるのをやめろ承太郎結構痛いぞ」
だんだん力を込めていくから本当に痛い。痛みはあるんだぞ、何回言えばわかる。視線をそらしたままで承太郎は沈黙するだけ。先に進んでいいってことだと解釈することにした。
手をそっと脇腹に這わせるとすこし眉間にしわを寄せた。気にせずさらに下に手を伸ばしていくと素早くその手を捕まえられる。なんだいいところだったのに。
「何をしようとしていやがる、お前」
「もう何を言っても遅いぞ承太郎、手を離せ」
深い緑色の瞳に見つめられる。逃がさない、と宣言はしたはずだ。それに逃げ出すチャンスも与えた。一度ずつ。その上でお前はここにいる。
それをわざわざ逃がすほどやさしいわけがないことは、お前がよく知っているだろう?
「なんだ、嫌か」
首筋を犬みたいに舐められるとくすぐったいらしくてたまらず押しのけられた。犬みたいだなんてバカにされるのは気にしない。
鎖骨に歯を立てる。視線だけで伺うと、目をそらして下唇を噛む。声をたえたのか、ゆっくりと息を吐く。
「もう逃げるか?」
わざとその言葉を選ぶのはここに縛り付けておきたいからだ。今度こそ、という気持ちもある。
何度チャンスをわざと逃したか、無理に押さえつけてでもやっておきたかったが承太郎のほうからも求めさせたかった。
それだけのたえにどれくらい芽を摘んだか。もう少しもう少しと先延ばしにしてきたご馳走だ。まだ味わいたい。
「…何いってやがる、平気だぜ」
むすっとして、睨み付けてくる承太郎の頬はほんのりと赤くなっているのが見える。平気ではない、ただの強がりだ。
そうか、と簡単に返事をしてシャツを脱がしにかかる。裾をたくしあげただけで承太郎はぎょっとしているようだった。
あまりこういう経験がないんだろう、このあたりは普通の高校生なのだ。初々しくていとおしい、と思う。
ジョースターの血統ではある。でもそれと切り離して考えれば、かわいらしいとすら思えるのだ。
一回死んだからだろうな、と冷静に考えることが出来るまでにはなったのだ。成長とかそういうものではなくただの納得。
「…自分で脱ぐから、手ぇ離せ」
少し考え込んでいたのを勘違いしたのか、自分からシャツを脱ぎ去ってしまう。脱がせるのもひとつの醍醐味だというのに。
自分で脱いでくれるのはありがたい、なにより積極的なのがいい。シャツを丸めて床に放る。
「承太郎、私はお前が好きだぞ」
「…初めてきいた」
「嘘をつけ」
ことあるごとに言っていたのを、記憶にとどめていなかったらしい。まったくこれじゃ話にもならない。そこが奴らしいといえばそうなのだが。
血が通わない体はひんやりと冷たい。かわりに違う液体が流れているようで、生きているときと変わらないで動かせるがひどく冷えているのだ。
承太郎の体に触れるたびに指先だけが体温を奪って熱いくらいに感じる。びく、と体をふるわせるから承太郎も相当冷たいだろう。
「冷てえ…」
「…死んでるんだから当然だろう」
ぽそりと言うと承太郎は視線を落とす。その表情に罪悪感だとか、気にするはない。当然だろう、倒すべき悪だったのだから。それは知っているし、理解している。
気にかかるのか、珍しく承太郎のほうからそっと顔をなでてきた。輪郭をなぞったあと、髪を指ですいて目を覗き込む。
「俺とそんなにかわらねえのに」
ふかい緑色の目は相変わらず澄んでいて、それを見るとどうしてもその目を涙でいっぱいにしてやりたくなるが堪える。今それをするべきではない。
変わりに薄く目を閉じて口付けた。もうそれに抵抗はないらしく、されるがままだ。舌を差し込んで暖かい口内を味わう。
当然、口の中もひんやりと冷たくなっていく。息がうまくすえないのか、服の裾を引かれた。苦しい、ということらしい。仕方なく開放してやると熱っぽく息を吐いた。
「ふ、っ…んん」
「…噛むな、切れるだろう」
「くるし…って、いったろ…」
どうやら息を止めていたらしく、少し噴出してしまう。そこまでとは、思っていなかった。うぶなのはいい、教えがいがある。
海のそこにいた100年より前、生きていたころ。それなりに経験は多かった、それに再び地上に出てからもそれは変わっていない。
「そんなんじゃあ…逃げられるぞ、今から慣れておけ」
黙り込んで顔を伏せる承太郎のあらわになった首筋をなでると、やはりまだ冷たさにはなれないのか少し顔を上げた。それから怪訝な顔をして、ぎらりと睨み付けてくる。
逃げるとか、そういう言葉はお好きじゃないらしい。血統だろうかとぼんやりジョナサンを思い出す。違う人物ではあるが、どこか似ていると感じるのは感傷かもしれない。
「お前で?」
「教えてもらうだけいいだろう?」
無知よりはましだ。言いくるめておとなしくさせて、肩口に顔をうずめる。こうするとどうも首に歯を立ててしまいたくなるからいけない。そういう魅力があるのだ。
吸血鬼になって発達した牙を立てる代わりに舌を這わせた。承太郎は小さく息をついただけで、やめろとか嫌だとか抵抗をまったくしない。良い傾向だ。
「…つー、か」
「何だ」
横になったままの承太郎が思い出したようにぽそりとつぶやく。返事を待つ。一度視線を合わせてから、すぐにそらされてしまった。
「……てめぇ、勃つのか」
一瞬の静寂。ほどなく我慢出来ずにのどの奥から笑い声がこぼれてしまう。く、くと我慢していると居心地が悪いらしく鋭く睨み付けてきた。
「何笑ってんだ」
「いや、なんだ、気にしてるのかと、く、くう」
涙まで出てきた。このDIOが。承太郎がまさかそんな言葉を出すとは、これっぽっちも思っていなかった。思わぬことをやってくれる。
「笑いすぎだ…」
「すまん、拗ねるな」
ぷいと顔を背けてしまった承太郎にどうも頬が緩む。今までこんな風に笑った顔を見せたことがないせいか、承太郎も仕方ないとばかりにため息をついて頬をつねるだけにとどめたらしい。
「こんな経験あるわけねえだろ、知ってるほうがおかしいんだ」
「わかったからつねるのをやめろ承太郎結構痛いぞ」
だんだん力を込めていくから本当に痛い。痛みはあるんだぞ、何回言えばわかる。視線をそらしたままで承太郎は沈黙するだけ。先に進んでいいってことだと解釈することにした。
手をそっと脇腹に這わせるとすこし眉間にしわを寄せた。気にせずさらに下に手を伸ばしていくと素早くその手を捕まえられる。なんだいいところだったのに。
「何をしようとしていやがる、お前」
「もう何を言っても遅いぞ承太郎、手を離せ」
深い緑色の瞳に見つめられる。逃がさない、と宣言はしたはずだ。それに逃げ出すチャンスも与えた。一度ずつ。その上でお前はここにいる。
それをわざわざ逃がすほどやさしいわけがないことは、お前がよく知っているだろう?
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これくらいならNINJAさんも許してくれるよね!という、淡い、期待…。
さあ!この後も続きを頑張って書くよ!
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