お前の瞳が気に入らない。
「そもそもこのDIOの何が気に入らんのだ」
腕を組み、部屋に入ったとたんこんなことを言ってくるのだから今日の吸血鬼はいつもに比べ二回りほどおかしいらしい。
「全部」
何とかじゃなくてお前が気に入らない、ときっぱり言い切ればいいのだがこの場で発言を続けることはこいつとの会話を続行させることを意味する。
となれば、あとは黙ってどこかに出かけてしまうのが一番だろう。自分の部屋で心が休まらないというのは由々しき事態だが仕方が無い。
「それじゃ答えになっていないぞ、承太郎」
「全部と言ったら全部だ、ほかにはない」
うろうろと歩き回るDIOは、この間の一件以降うっすら実体になってきているようだ。120年も生きた化け物だけに、幽霊になっても力があるのかもしれない。
それを確かめるためにちょっかいを出される身としてはつらい状況ではある。
夜中、突然腹を踏まれたり頬をつねられたり、いったいお前はどこの小学生だと言いたいほどのいたずら具合だ。
特に行く場所もないが、そういえば図書館の本を少し延滞していたような気がする。日付を確かめると2日ほど過ぎていた。
出かける用事が出来てちょうどいい。本を抱えて部屋から出ようと振り向くと、目前に迫る濃い顔。
「…!!」
「じょ〜ぅたろぉ〜、それじゃ納得できん」
「お前に納得させようと思って言ってるわけじゃねえ」
今までどおりなら、このまま戸をあけて外に出るところだが半端に実体化しているせいで暑苦しい顔に突っ込むことになってしまう。それだけは回避したい。
ふむ、と唸ると顎に手を当てしばらく考える。今だ、こいつをどかすには今しかない。本を抱えていない、開いた腕で押しのけようと手を伸ばす。
何を思ってか伸ばした腕をそのまま引かれ、バランスを崩す。自分の体が頑丈であることに自信はあるがこう突然だと引かれるままDIOのほうに倒れこむ格好になる。
「…まだ違和感が」
もう片方の手で首筋をなぞり、じっと睨み付けてくる。その視線はエジプトで見たものを思い出させるのに十分で、ちりと胸が焼けるような気持ちになる。
「さっさと離せ、どけ、成仏しろ」
「少しおとなしくしておけ」
握られたままの腕をつかむ力は強くない。振りほどこうとするが、赤い瞳に遮られる。息を詰まらせると、肩口に顔を埋め熱い息を吐いた。
「…美味そうなんだがなあ」
くわと開いた口に並ぶ鋭い歯にあせる。いや、まさか、幽霊に噛み付かれそうになるだなんて思っても見なかった。
「DIO!」
押し返そうとするが、重い。人間のそれとは違う重さに歯噛みする。うまくいったとばかりに肩を震わせて笑うDIOは、得意げだ。
「かまわないだろう?」
「かまう!やめろ、どけ!」
思わず口をついた言葉は日本語が崩壊している。それだけあせっているというのは、自分からしても驚くべきことだ。
スタープラチナでも出してやろうかと思うが、果たして半分実体化した幽霊に当たるのかということすら怪しい。
「今日はこれくらいにしておいてやろう」
どこの負け犬の台詞だ、と返してやろうと開いた唇にDIOのそれが押し当てられる。冷たい感触が一瞬触れて、離れた。
「私の名前も覚えていたようだしな」
満足げに口元だけで笑うと、DIOはさっさと行って来いとばかりに戸を開ける。当人はそれから俺の布団の上にごろりと転がった。
そういえば、まともに名前を呼んだのははじめてだったような、そうでないような。
まあ、迷惑な吸血鬼が満足したのだからいまのうちに出かけることにする。やれやれ、とつぶやくのは忘れなかった。
腕を組み、部屋に入ったとたんこんなことを言ってくるのだから今日の吸血鬼はいつもに比べ二回りほどおかしいらしい。
「全部」
何とかじゃなくてお前が気に入らない、ときっぱり言い切ればいいのだがこの場で発言を続けることはこいつとの会話を続行させることを意味する。
となれば、あとは黙ってどこかに出かけてしまうのが一番だろう。自分の部屋で心が休まらないというのは由々しき事態だが仕方が無い。
「それじゃ答えになっていないぞ、承太郎」
「全部と言ったら全部だ、ほかにはない」
うろうろと歩き回るDIOは、この間の一件以降うっすら実体になってきているようだ。120年も生きた化け物だけに、幽霊になっても力があるのかもしれない。
それを確かめるためにちょっかいを出される身としてはつらい状況ではある。
夜中、突然腹を踏まれたり頬をつねられたり、いったいお前はどこの小学生だと言いたいほどのいたずら具合だ。
特に行く場所もないが、そういえば図書館の本を少し延滞していたような気がする。日付を確かめると2日ほど過ぎていた。
出かける用事が出来てちょうどいい。本を抱えて部屋から出ようと振り向くと、目前に迫る濃い顔。
「…!!」
「じょ〜ぅたろぉ〜、それじゃ納得できん」
「お前に納得させようと思って言ってるわけじゃねえ」
今までどおりなら、このまま戸をあけて外に出るところだが半端に実体化しているせいで暑苦しい顔に突っ込むことになってしまう。それだけは回避したい。
ふむ、と唸ると顎に手を当てしばらく考える。今だ、こいつをどかすには今しかない。本を抱えていない、開いた腕で押しのけようと手を伸ばす。
何を思ってか伸ばした腕をそのまま引かれ、バランスを崩す。自分の体が頑丈であることに自信はあるがこう突然だと引かれるままDIOのほうに倒れこむ格好になる。
「…まだ違和感が」
もう片方の手で首筋をなぞり、じっと睨み付けてくる。その視線はエジプトで見たものを思い出させるのに十分で、ちりと胸が焼けるような気持ちになる。
「さっさと離せ、どけ、成仏しろ」
「少しおとなしくしておけ」
握られたままの腕をつかむ力は強くない。振りほどこうとするが、赤い瞳に遮られる。息を詰まらせると、肩口に顔を埋め熱い息を吐いた。
「…美味そうなんだがなあ」
くわと開いた口に並ぶ鋭い歯にあせる。いや、まさか、幽霊に噛み付かれそうになるだなんて思っても見なかった。
「DIO!」
押し返そうとするが、重い。人間のそれとは違う重さに歯噛みする。うまくいったとばかりに肩を震わせて笑うDIOは、得意げだ。
「かまわないだろう?」
「かまう!やめろ、どけ!」
思わず口をついた言葉は日本語が崩壊している。それだけあせっているというのは、自分からしても驚くべきことだ。
スタープラチナでも出してやろうかと思うが、果たして半分実体化した幽霊に当たるのかということすら怪しい。
「今日はこれくらいにしておいてやろう」
どこの負け犬の台詞だ、と返してやろうと開いた唇にDIOのそれが押し当てられる。冷たい感触が一瞬触れて、離れた。
「私の名前も覚えていたようだしな」
満足げに口元だけで笑うと、DIOはさっさと行って来いとばかりに戸を開ける。当人はそれから俺の布団の上にごろりと転がった。
そういえば、まともに名前を呼んだのははじめてだったような、そうでないような。
まあ、迷惑な吸血鬼が満足したのだからいまのうちに出かけることにする。やれやれ、とつぶやくのは忘れなかった。
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DIOさまは名前を呼ばれることに執着して欲しい。
というより相手に認識されることに執着して欲しいんだな。
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