03:体温差は約2℃弱

 
その日珍しく億泰は学校を休んだ。由花子に訪ねても知らないと言うし、授業をフケたわけでもない。
つまり今日は家から出ていない。何となくそれに違和感を覚えた。確かにあの家は彼の家だけど、そこから一歩も出ないということは珍しい。
連絡をとろうにも億泰は電話を持たない。だから直接向かうしかなかった。といっても、ご近所だから苦ではないのだが。
「億泰〜、億泰よぉーいっかぁー?」
家の中に呼び掛けても返事がない。ほとんど廃屋のこの家は声がよく響く。しんと静まりかえっているのは異様だった。
「億泰…?」
まさかスタンド使いがきて、やられてしまったのか?億泰は馬鹿だけど弱くない。それに何かあったら誰かしら知ってるはずだ。
だからそれはない、無いはずだとあせりはじめた自分に言い聞かせる。
「…じょうすけー?」
まのぬけた声が聞こえてきて、やっと安心する。廊下の奥から姿を表した億泰はよたよたと落ち着かない歩きをする。
「どうした、怪我でもしたのかよ」
「頭が痛ぇし、真っ直ぐ歩けねぇんだよ…転んで尻打ってイテェ」
赤い顔をして、壁にへばりつく億泰の様子はどうみても、一般の人から言わせれば、風邪である。
俺のところにたどり着く前に、ぐったりと座り込んでしまった。これは相当ひどい。
「億泰、それ風邪って言うんだぜ、知ってたか?」
「……バカは風邪ひかねぇんじゃねーの?」
ああダメだ、億泰って本格的にバカだったと額に手を当ててため息をつく。
廊下を踏み抜かないようにそろそろ歩いていって、億泰の額に手を当てると思ったとおり熱かった。
「バカは風邪に気づかねぇんだ」
「なるほど!」
そこで納得するな!と思わずどつきそうになったが堪えて、布団まで引きずっていくことにする。が、どこで寝ているかなんて知っているはずがない。
「お前、いっつもどこで寝てんの?そこまで引きずってくからよー」
「…床?」
「ハア?床ぁ?!」
「夏気分で」
肌寒いなんて季節はとっくに過ぎて、朝方水溜りに氷が張ってるのをお前は知らないのかとよっぽど怒鳴りつけようかと思った。
が、思い出してみれば億泰は杜王町で過ごす冬は初めてなのだ。寒さ対策が不十分なのだと思いたい。今こそ形兆兄貴のグーパンチが欲しい。
「…ベッドとかねーのかよこの家はよー」
「兄貴のしかねー」
「そこでいい!」
風邪薬なんか当然無いであろう虹村家に、どうやって生活用品を仕込んでいくか考えながら億泰を引きずって連れて行くことにした。

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虹村家は生活臭がしないから怖い。兄貴もどこで寝てたんだろう。
億泰、ふとんでねろ。ついに氷が張ったのでうれしくて書いてみました。