せくはらげんきん
空条承子は英語教員室が嫌いだ。理由は簡単、嫌いな教師がそこに存在するから。
「失礼します」
「空条〜、入室時には帽子を取るんだ」
両手いっぱいの荷物を渡しておいてこの男はいったい何をほざいているの。毎日毎日これだから、言っても無視することにした。
実際教員室にはこの先生以外、誰もいないことが多い。この先生が苦手なのか嫌なのか、確実にすいている人はいないと思う。
女子生徒の中ではかっこいいとか、魅力的だとか、色気がどーだとかで人気がある。人を見る目がないわね、なんていってあげたことはない。
「それに」
椅子からすいと立ち上がる様子は優雅で、確かに頭がよくは見える。でもなんとなくこの先生は好きになれないのだ。
「誰に用事があるのか、ちゃんと言ってもらわないとわからないな」
「ここには先生しかいませんけど」
「そうとは限らないではないか」
つかつかと近寄ってくるのもやめてほしい。距離が近い。とても近い。30センチとか、そういう風に表すだけじゃ足りない。
肌が触れ合うくらいとか、吐息があたるとか。ここに誰か、ほかの先生がいたらセクハラの証人として一緒に警察にでも言ってもらうのに。
「ディオ先生」
「フルネームで」
「ディオ・ブランドー先生」
なぜか名前を呼ばせることに固執するあたりが、意味がわからない。名前なんてちゃんと知っているのに。本当は忘れたいのだけど。
肩よりちょっと下まで伸ばしてた髪も、あんまりこの先生が触るものだからすっかり切ってしまった。気に入ってたのに。
それを思い出すとちょっとむかむかする。そもそも、こんな重たい荷物わざわざ私に運ばせないでよ。荷物を押し付けようと一歩前に出る。
「よろしい」
ふわ、と頭の上の帽子が取られる。あわてて手を伸ばすと、抱えていた荷物の一部が床の上にちらばった。
「おや、せっかく取ってあげたのに」
口元に嫌な笑みを貼り付けたまま、ディオ(もう呼び捨ててでいい。)はじっと視線を床の上の荷物に合わせる。
「ちゃんと拾ってくれるだろう、空条」
「……」
はい、というのはなんとなくこの嫌な男に従うようで気に食わない。少し乱暴に拾ってまとめ、荷物を押し付ける。
帽子を奪い返そうと手を伸ばすけど、真上にすいとあげられて手が届かない。
背が高いほうではあるけど、ディオは普通の人よりもでかい。だから、当然私の指先も届くわけがない。
「自分の帽子だろう?」
ひらひらと帽子を頭上で遊ばせながら、小ばかにしたように笑われる。ディオはじりじりと壁際まで下がっていく。
このまま追い詰めれば、腕が伸びる高さが制限できるかも。教員室は狭いし、ところどころものが散らばっている。
なんとか部屋の角まで追い詰めるとディオはそのときやっと、一瞬だけしまったかな?という顔をして最後に降参と手を上げた。
ただ少し、ディオの胸あたりに帽子があるものだから近寄らないといけないのが少し嫌だ。警戒しないといけないじゃない。
「ほら、取りに来い」
もう意地悪しないから、と人がよさそうに笑ってみせるからなお信用できない。でもこっちに寄せる気はまるでない。
仕方なく背伸びまでして、手を伸ばして帽子をつかむ。その一瞬(本当に一瞬、油断したわけじゃない)腕をつかまれて引き寄せられてしまった。
「意外と貧弱だな」
「な、ちょっとどこ触ってんですかっ!」
「尻だが」
「そういうこと言ってるんじゃないです!さっさと離せ!」
グーでもいれてやろうかと思って振り上げても密着しすぎていて逆に手が出せない。ハメられたっていうのかしら。
肉を食えー、とかいいながらのんきに触りっぱなしのこのセクハラ教師なんとかして。
「ふむ、なかなか」
「いい加減にしろ!」
スカートに手が伸びた瞬間、さすがに我慢出来なくなって顔面にグーを繰り出した。無理をしたせいか肩がちょっといたい。
帽子を取り返して、そのまま教員室から走って逃げる。
もう教師だからって気を使わない。あの変態いつかぶっ飛ばす。強く心に誓って階段を駆け上がった。
おまけ
「空条ーっ、水色かーっ?」
「ぱんつ見てんじゃあねえーーっ!!」
「スパッツはくといいぞー」
(たぶんこのあと花京院がディオ先生にお説教タイム)
「失礼します」
「空条〜、入室時には帽子を取るんだ」
両手いっぱいの荷物を渡しておいてこの男はいったい何をほざいているの。毎日毎日これだから、言っても無視することにした。
実際教員室にはこの先生以外、誰もいないことが多い。この先生が苦手なのか嫌なのか、確実にすいている人はいないと思う。
女子生徒の中ではかっこいいとか、魅力的だとか、色気がどーだとかで人気がある。人を見る目がないわね、なんていってあげたことはない。
「それに」
椅子からすいと立ち上がる様子は優雅で、確かに頭がよくは見える。でもなんとなくこの先生は好きになれないのだ。
「誰に用事があるのか、ちゃんと言ってもらわないとわからないな」
「ここには先生しかいませんけど」
「そうとは限らないではないか」
つかつかと近寄ってくるのもやめてほしい。距離が近い。とても近い。30センチとか、そういう風に表すだけじゃ足りない。
肌が触れ合うくらいとか、吐息があたるとか。ここに誰か、ほかの先生がいたらセクハラの証人として一緒に警察にでも言ってもらうのに。
「ディオ先生」
「フルネームで」
「ディオ・ブランドー先生」
なぜか名前を呼ばせることに固執するあたりが、意味がわからない。名前なんてちゃんと知っているのに。本当は忘れたいのだけど。
肩よりちょっと下まで伸ばしてた髪も、あんまりこの先生が触るものだからすっかり切ってしまった。気に入ってたのに。
それを思い出すとちょっとむかむかする。そもそも、こんな重たい荷物わざわざ私に運ばせないでよ。荷物を押し付けようと一歩前に出る。
「よろしい」
ふわ、と頭の上の帽子が取られる。あわてて手を伸ばすと、抱えていた荷物の一部が床の上にちらばった。
「おや、せっかく取ってあげたのに」
口元に嫌な笑みを貼り付けたまま、ディオ(もう呼び捨ててでいい。)はじっと視線を床の上の荷物に合わせる。
「ちゃんと拾ってくれるだろう、空条」
「……」
はい、というのはなんとなくこの嫌な男に従うようで気に食わない。少し乱暴に拾ってまとめ、荷物を押し付ける。
帽子を奪い返そうと手を伸ばすけど、真上にすいとあげられて手が届かない。
背が高いほうではあるけど、ディオは普通の人よりもでかい。だから、当然私の指先も届くわけがない。
「自分の帽子だろう?」
ひらひらと帽子を頭上で遊ばせながら、小ばかにしたように笑われる。ディオはじりじりと壁際まで下がっていく。
このまま追い詰めれば、腕が伸びる高さが制限できるかも。教員室は狭いし、ところどころものが散らばっている。
なんとか部屋の角まで追い詰めるとディオはそのときやっと、一瞬だけしまったかな?という顔をして最後に降参と手を上げた。
ただ少し、ディオの胸あたりに帽子があるものだから近寄らないといけないのが少し嫌だ。警戒しないといけないじゃない。
「ほら、取りに来い」
もう意地悪しないから、と人がよさそうに笑ってみせるからなお信用できない。でもこっちに寄せる気はまるでない。
仕方なく背伸びまでして、手を伸ばして帽子をつかむ。その一瞬(本当に一瞬、油断したわけじゃない)腕をつかまれて引き寄せられてしまった。
「意外と貧弱だな」
「な、ちょっとどこ触ってんですかっ!」
「尻だが」
「そういうこと言ってるんじゃないです!さっさと離せ!」
グーでもいれてやろうかと思って振り上げても密着しすぎていて逆に手が出せない。ハメられたっていうのかしら。
肉を食えー、とかいいながらのんきに触りっぱなしのこのセクハラ教師なんとかして。
「ふむ、なかなか」
「いい加減にしろ!」
スカートに手が伸びた瞬間、さすがに我慢出来なくなって顔面にグーを繰り出した。無理をしたせいか肩がちょっといたい。
帽子を取り返して、そのまま教員室から走って逃げる。
もう教師だからって気を使わない。あの変態いつかぶっ飛ばす。強く心に誓って階段を駆け上がった。
おまけ
「空条ーっ、水色かーっ?」
「ぱんつ見てんじゃあねえーーっ!!」
「スパッツはくといいぞー」
(たぶんこのあと花京院がディオ先生にお説教タイム)
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背伸びする承子はかわいいね、っていう…
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