くうじょうさんちはおばけやしき

 
「承太郎、朝だぞ」
「……」
目覚まし時計を止めようとした手を取ってDIOは爽やかに笑う。吸血鬼に似合わないさわやかさ。詐欺だ。
昨日の今日で、あまり顔を会わせたくなかった。できれば、という話であってこいつがいるのは仕方がない。
だから、DIOの隣に誰か座り込んでいるのが見えたときは驚いて動きが止まってしまった。
「やあ承太郎、久しぶり」
「か」
指差して、時計を見て、もういちどそこを見る。口が上手く動かない。声が喉でつぶれる。旅が終わって、ずっと忘れないように心に刻んだ顔、声。
変な前髪はそのままで、大好きだっていうさくらんぼをかたどったピアスもあって、片手を挙げて微笑んでいる。
「花京院…」
「ただいま」
眉を下げて、困ったような顔をしながら花京院は笑う。情けない笑顔だ。旅の途中で見たのと同じ。
恐る恐る手を伸ばす。指先は何も触れず、彼を通り抜けてしまった。当然だ、彼は死んでいるのだから。そのことにひどく胸が痛む。
「…僕、未練とか無かったはずなんだけどな」
「…お前なあ」
「よっぽど承太郎のこと、諦められなかったみたい」
柄にもなく鼻の奥がつんとした。着替えるふりをして、体を背ける。いや、実際時間が危ないのだがおきぬけにこんなことがあっては集中できない。
うれしくない、わけがない。言葉の意味は深く捕らえないことにして、さらになぜ我が家にはこう幽霊が集まるのかということも考えないことにして。
「それと、DIOだけにいい思いはさせられないし」
「ほう」
花京院の隣でDIOはこらえきれないとばかりににやついている。なんというか、この空気に耐えられないというような感じだ。
「ただの幽霊ごときにこのDIOは超えられんがな」
「今のうちにいきがってればいいよ」
不穏な空気だ。かかわるのをやめよう。学ランに袖を通して、時計を見る。ぎょっとした。さすがにそろそろ遅刻はしたくない。
「承太郎!僕も行く」
「いらん」
ああもう、また増えた。今度はアブドゥルが来たらどうするか、やれやれ面倒くさい。とにかく今は急ぐことにした。

----------------
花京院は普通の幽霊だからたぶん触れない、と、思う。