つんつん

 
「なぁーっ、先生って俺のこと好きっしょぉ?」
この脳たりんは突然押し掛けてきてこんな奇っ怪なことをほざく。
外は雪、それも積もりそうな重たい雪だ。雨宿りさせて下さいなんてへらりと訪ねてきたのは数時間前のこと。
肩にうっすら雪がつもって、自慢の髪にもところどころ白い部分が出来ていた。
風邪をひかれたら僕にうつる。それはこまるから風呂に押し込んで暖めた。
「先生も優しい人間だったんすねぇ」
まるで今知りましたみたいに言ったのはひとにらみして黙らせた。元々僕は優しいたちだ。多分。
「仗助、お前の頭は一体どうなってるんだ?僕にはさっぱり理解出来ない」
するつもりもないが、仕事をしている僕の横で椅子に座ってご機嫌なこいつは全く気にしていないらしい。
「だってわざわざ暖かいものもくれるなんて思わないじゃないっすか」
僕は別に寒くない、が濡れてぷるぷる震えていられるのがうっとおしくて毛布を投げつけた。それのことだろうか。
「馬鹿は風邪をひかないってのも最近は信用出来ないからな、そういうのを防ぐためだ」
「じゃ、このコーヒーは?」
「ついでだ、僕だって情けはある」
カップを両手で持って暖を取っている。まだうっすらと湯気がたっているがすぐに冷めてしまうだろう。さっさと飲め。
「俺、先生の前で一回しかコーヒー飲んだこと無いっすよね?」
「…さあ、いちいち覚えてない」
「一回ッスよ!ドゥ・マゴで一回だけ!」
「うるさいな!それが何だって言うんだ?!」
こううるさいと集中して仕事なんかできやしない。魂をかけていることなんだからこんな半端な状態では出来ない。
振り向いたら、仗助はまたへらりと笑う。情けない顔だ。
「先生、俺がコーヒーに砂糖とミルクいれたの覚えてたから最初からいれてくれたんすよね?」
そう言うと、カップの中身をいっきに飲み干す。空になったカップがことりと音を立てて机に置かれた。
「覚えてるってことは、俺のこと意識してるってことっしょ?」
まいった。自然に顔に熱が集まってくる。だからなるべく意識しないようにしていたのに、このバカは。
「あーもういい、僕にはわからない」
「そーいうことなんすよねっ?図星かぁー、先生顔真っ赤っすよ」
「あーもうっ、うるさい!好きだよ、悪いか?!これで満足か!」
きょとんと居直って仗助はじっと視線を寄越す。それから両手で顔を覆って、ゆっくり体を背けた。何がしたいかわからない。
「おい、言い出しておいてその態度はないだろう」
「あーっ!だめだめ、今はだめっす、こっちこないで」
そうか、と頷いてからうつむく仗助の前に回ってその両手をつかむ。はっとしたときはすでに遅い。
「だが断る!」
「しんじらんねぇ!いたいけなコーコーセー相手にむきになんないでくれよ先生ぇ!」
「君のどこがいたいけだよ」
唸り声をあげて、仗助はがっくりと肩を落とす。
「…君のほうが赤いじゃないか」
「せんせいの勘違いじゃねーっすかねぇ!」

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ツンとツンだと思うんだ。